医療コラム(漢方内科):寒暖差疲労には漢方薬 〜秋冬の気温変化に負けない体づくり〜
<<寒暖差疲労とは>>
寒暖差疲労という言葉を知っていますか?
最近、私の漢方外来には「朝晩の冷え込みが厳しくなってから、なんとなくだるい」「日中は大丈夫なのに、夕方になると急に疲れが出る」といった相談が増えています。
あなたも、秋から冬への季節の変わり目に、原因不明の倦怠感や体調不良を感じたことがあるのではないでしょうか。
11月は、日中と朝晩の気温差が10℃以上になることも珍しくありません。
さらに、暖房を使い始めることで、室内と屋外の温度差も大きくなります。
このような気温の変化に体が対応しようとして、自律神経が過剰に働き続けることで起こるのが「寒暖差疲労」です。
主な症状として、全身の倦怠感、頭痛、肩こり、めまい、不眠、イライラ、食欲不振などがあります。
これらは、8月のコラムで紹介した「冷房病(クーラー病)」と似ていますが、寒暖差疲労は気温の上下変動によって起こる点が異なります。
寒暖差疲労は、病院で検査をしても異常が見つからないことがほとんどです。
しかし、これを放置すると、免疫力が低下して風邪をひきやすくなったり、本格的な自律神経失調症に進行したりする可能性があります。
漢方医学では、このような状態を「未病」と捉え、早めの対策が大切だと考えます。
<<寒暖差疲労への一般的な対策>>
寒暖差疲労を予防・改善するには、まず生活習慣を見直すことが基本です。
最も重要なのは、体温調節をしやすい服装の工夫です。
重ね着やカーディガンなどを活用して、気温の変化に応じてこまめに調整できるようにしましょう。
特に首、手首、足首の「三つの首」を温めることで、効率よく体を温めることができます。
入浴も効果的な対策の一つです。
38〜40℃のぬるめのお湯にゆっくり浸かることで、副交感神経が優位になり、自律神経のバランスが整います。
シャワーだけで済ませず、湯船に浸かる習慣をつけましょう。
食事では、体を温める食材を積極的に取り入れることが大切です。
生姜、ネギ、ニンニク、根菜類などは、体を内側から温める働きがあります。
逆に、冷たい飲み物や生野菜の摂りすぎは、体を冷やして自律神経の負担を増やすので注意が必要です。
睡眠の質を高めることも重要です。
就寝時間と起床時間を一定にして、生活リズムを整えましょう。
寝る前のスマートフォンやパソコンの使用は、交感神経を刺激して睡眠の質を下げるので控えめにしてください。
また、適度な運動も自律神経を整える助けになります。
ウォーキングやストレッチなど、無理のない範囲で体を動かす習慣をつけましょう。
ただし、これらの生活習慣の改善だけでは、症状が十分に改善しない場合もあります。
<<寒暖差疲労に対する漢方治療>>
寒暖差疲労の症状が辛いときは、漢方薬が大きな力になります。
漢方医学では、寒暖差疲労を「気」のバランスの乱れと捉えます。
気温の変化に対応しようとして「気」が消耗し、その結果として様々な症状が現れると考えるのです。
寒暖差疲労に対する代表的な漢方薬の一つが「補中益気湯(ほちゅうえっきとう)」です。
この処方は、消耗した「気」を補って、体力と免疫力を高める働きがあります。
特に、疲れやすい、食欲がない、朝起きるのが辛いといった症状がある人に適しています。
また、冷えを伴う寒暖差疲労には「当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)」が効果的な場合があります。
これは、血の巡りを良くして体を温め、特に女性の冷え性や疲労に優れた効果を発揮します。
自律神経の乱れによるイライラや不眠が強い場合は、「加味逍遙散(かみしょうようさん)」を用いることもあります。
この処方は、気の巡りを整えて、ストレスによる症状を和らげる働きがあります。
さらに、胃腸が弱くて食欲不振や胃もたれを伴う場合には「六君子湯(りっくんしとう)」が適しています。
胃腸の働きを整えることで、気を補う力を高めるのです。
興味深いのは、漢方薬が単に症状を抑えるだけでなく、寒暖差に対する体の適応力そのものを高めてくれることです。
継続して服用することで、気温の変化に強い体質へと改善していくことができます。
ただし、すべての寒暖差疲労に同じ漢方薬が効くわけではありません。
漢方医学では、同じ「寒暖差疲労」でも、その人の体質や症状の現れ方によって、最適な処方が変わってきます。
例えば、もともと暑がりの人と冷え性の人では、選ぶべき漢方薬が異なります。
また、疲労が主体なのか、精神症状が主体なのか、胃腸症状が主体なのかによっても、処方を使い分ける必要があります。
寒暖差疲労の症状でお困りの方は、体質に合った適切な漢方薬について、ぜひ漢方専門医にご相談ください。
本格的な冬を迎える前に、寒暖差に負けない体づくりを始めましょう。
漢方未病治療センター長 喜多敏明

