医療コラム(漢方内科):風邪には葛根湯? 〜「内の守り」を固める漢方の知恵〜

12月に入り、寒さも本格的になってきました。

ニュースでは連日、風邪やインフルエンザの流行が報じられています。

皆さんは、どのような対策をされていますか?

うがい、手洗い、マスク。これらはすべて、ウイルスを身体の中に「入れない」ための、外からの防御です。

一方で、漢方医学が重視するのは「内の守り」です。

現代医学的に言えば、免疫力や抵抗力を高めて、ウイルスが入ってきても負けない身体を作ることです。

冬に風邪が猛威を振るうのは、ウイルスが低温乾燥を好むからだけではありません。

寒さで私たちの体温が下がり、免疫力が低下してしまうことが大きな原因なのです。

したがって、最も重要な対策は、身体を冷やさず、体温を上げるような「養生」をすることです。

 

基本はやはり、食事と運動です。

食事では、身体を内側から温める「生姜」が特にお勧めです。

ビタミン補給にと果物をたくさん食べる方がいますが、果物や生野菜は身体を冷やす性質のものが多いので、冬場はほどほどにしましょう。

代わりに、根菜類をたっぷりと入れた鍋やスープにして食べると、身体の芯から温まります。

また、寒いからと言って、暖房の効いた室内でじっとしているのは逆効果です。

自家発電できる身体を作るために、天気の良い日はできるだけ外に出て運動するようにしましょう。

 

しかし、どんなに養生していても、風邪を引いてしまうことはあります。

そんな時は、「早め」に漢方薬を服用するのが一番です。

風邪の漢方薬としては、「葛根湯(かっこんとう)」が有名ですね。

ぞくぞくと寒気がして、首筋や肩がこる。

熱も少し上がってきたかな……というタイミング。

ここで葛根湯を服用すると、身体が温まって汗が出て、一服で治ってしまうこともあります。

 

しかし、漢方専門医としてお伝えしたいのは、「誰にでも葛根湯が効くわけではない」ということです。

体質や症状に応じて、漢方薬を使い分ける必要があります。

例えば、もともと冷え性が強く、体力がなくて、風邪を引いてもあまり高い熱が出ないタイプ。

こういう方に葛根湯を使うと、かえって疲れてしまうことがあります。

このタイプには、「麻黄附子細辛湯(まおうぶしさいしんとう)」という漢方薬を使います。

「附子(ぶし)」という、トリカブトの根から作られた生薬が入っており、冷え切った身体を強力に温めてくれます。

トリカブトというと驚かれるかもしれませんが、熱を加えて弱毒化してあるので、副作用の心配はありません。

 

また、胃腸が虚弱で、葛根湯を飲むと胃がムカムカしたり食欲が落ちたりする人には、「香蘇散(こうそさん)」を使います。

香蘇散に入っている「蘇葉(そよう)」という生薬は、シソの葉っぱです。

香りが良く、胃腸の働きを助けながら、穏やかに風邪を追い払ってくれます。

この他にも、水っぽい鼻水が止まらない時の漢方薬や、咳や痰がひどい時の漢方薬、あるいは嘔吐や下痢を伴う「お腹の風邪」に効果的な漢方薬など、適応となる処方は様々です。

 

風邪は「ひきはじめ」が勝負です。

こじらせてひどくなってからでは、漢方薬もなかなか効きません。

早め、早めに手を打つことが、早期回復の最大の秘訣です。

そのためには、風邪を引いてから慌てるのではなく、「自分の風邪にはどんな漢方薬が合うのか」をあらかじめ知って備えておくことが大切です。

風邪を引きやすかったり、一度引くと長引いてしまったりして悩んでいる方は、自分の体質に合った「マイ・風邪薬」について、ぜひ漢方専門医にご相談ください。

 

本格的な冬を、漢方の知恵と養生で元気に乗り切りましょう。

 

漢方未病治療センター長 喜多敏明