辻仲病院柏の葉では、「排便機能障害」の診察・治療を行っています。「排便機能障害」とは、様々な原因により大腸や肛門の機能に障害が生じ、「便秘」や「便失禁」といった症状が出ることをいいます。
- 便秘:便の回数が少ない、便が出にくい・すっきり出ない
- 便失禁:便やガスが漏れる 、便意が出てから我慢がきかない
排便は毎日の生活で当たり前に行われる行為ですが、そこに不便を感じると生活の質が著しく低下します。快食、快眠、快便は楽しく生活するために重要なことです。当院は、「排便」について真剣に考え、患者さんの快便を目指します。
診察の流れ
1.外来受診
「大腸・肛門外科」の外来を受診してください。
2.問診票の記入
どういった症状で困っているのかなどを調べるために問診票を記入します。服用している薬やこれまでの治療歴などを尋ねます。事前に問診票をダウンロードして記入し持参していただいても構いません。
3.診察室での診察
問診票の記入事項を参考にしながら診察します。便秘や便失禁の原因となる病気や既往、薬剤がないかを調べるために、問診、身体の診察を行います。必要に応じて腹部の触診や肛門の診察を行います。
便秘や便失禁の原因となる病気や既往、薬剤
便秘 | 便失禁 | |
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病気 |
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既往 |
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薬 |
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4.検査
検査は初診日に行える検査と予約が必要な検査があります。専門的な検査は多くが予約検査となります。
検査の詳しい内容は、「排便機能障害の検査」をご覧ください。
5.結果説明、治療開始
問診、身体診察、専門的検査の結果から 治療の基本的な考え方は、体に負担の少ない治療から始めるということです。食事内容の見直しや適切な運動を行うこと、つまり生活習慣の改善は一番体に負担がかかりません。
その他、薬物治療や排便のトレーニング(バイオフィードバック療法)、手術療法などを必要に応じて考えていきます。
治療の詳しい内容は、「排便機能障害の治療」をご覧ください。
排便機能障害の検査
一般的な検査
一般的な検査として血液検査、レントゲン検査(腹部X線)、大腸内視鏡検査があります。
血液検査
血液検査では便秘や便失禁の原因となる病気の診断(糖尿病など)を評価するのに有用です。
レントゲン検査(腹部X線)
腸閉塞や巨大結腸症、便がどれくらいたまっているのかを評価することが可能な一般的な検査です。
大腸内視鏡検査
便秘や便失禁を引き起こす病気を除外するために検査をします。大腸が狭くなる病気として大腸がんやクローン病、虚血性腸炎などがあります。これらの病気がないかを確認します。
専門的な検査
専門的な検査として、大腸通過時間検査、排便造影検査、直腸肛門内圧測定、肛門超音波検査、骨盤部MRI検査を行っています。これらの検査を必要に応じて行い、便秘や便失禁の種類、重症度を評価し、適切な治療法を考えます。
大腸通過時間検査(便秘)
レントゲンに写る小さな目印(24個)が入ったカプセルを1日1回、3日間連続で服用していただきます。服用を始めて4日目にレントゲンを撮影し、レントゲンに写った目印の数で大腸の動きを検査します。
目印がたくさん残っている場合は大腸の動きが遅く、残っていない場合は大腸の動きは正常と診断します。
排便造影検査(便秘・便失禁)
レントゲンに写る造影剤(バリウム)をペースト状に溶いた小麦粉に混ぜて便に似せたものを作ります。この疑似便を肛門から注入し、便座に座って排泄してもらうところをレントゲンで撮影します。
これによって便がどのように排泄されるかを調べることができます。便秘の診断として、直腸瘤、直腸重積、会陰下垂、骨盤底筋協調運動障害など、便を出すところに問題がある便秘(便排出障害型便秘)を診断することが可能です。
便失禁の場合でも直腸瘤や会陰下垂を認めることがあり、排便時の腸の動き方を調べることは、排便障害の診断に有用です。
直腸肛門内圧測定(便秘・便失禁)
肛門の締まりを調べる検査です。肛門を意識して締めるときの肛門内圧を随意収縮圧、意識せずに締まっているときの圧を安静時静止圧と呼びます。
肛門内圧などを調べるのに、プローブと呼ばれる細くて軟らかい棒を肛門に入れて圧を検知します。
肛門管超音波検査(便失禁)
肛門に検査用のプローブという細くて軟らかい棒を挿入し、肛門の周りの筋肉(内肛門括約筋、外肛門括約筋)の形を検査します。出産時などで括約筋が傷つくと肛門の周りの筋肉が連続してつながらず、途切れて写ります。
骨盤部MRI検査(便失禁)
骨盤の周りの筋肉や脂肪組織の形を詳しく調べるために行う画像検査です。丸い機械 の中に入って、体を色々な方向から輪切りにして映し出す検査です。
機械の中に入っている間は少し音が気になるだけで、体に痛みはありません。狭いところが苦手な人やペースメーカーなどの金属製の器具が入っている方は検査を受けられません。
排便機能障害の治療
当院で行っている便秘の治療は、(1)生活習慣、食事の指導、(2)薬による治療、(3)バイオフィードバック療法、(4)洗腸法、(5)手術があります。
便失禁の治療は、(1)食事・生活・排便習慣の指導、(2)薬による治療、(3)骨盤底筋の訓練、(4)バイオフィードバック療法、(5)洗腸法、(6)手術(大腸切除、仙骨神経刺激療法(SNM))があります。
便秘の治療
1.生活習慣、食事の指導
便秘症をよくするのに食物繊維摂取は効果があると言われています。最近、日本人が摂取する食物繊維量は1日平均13~4gと言われていますが、目標は男性で20g、女性で18g以上とされています。
食物繊維を多く摂るための食事指導や、食物繊維のサプリメントを利用して効果的に食物繊維摂取を心がけます。また腸内環境を整えるために、ヨーグルトなどから生きた微生物(いわゆる善玉菌)を摂取することを勧めます。
2.薬による治療
いわゆる便秘薬には多くの種類があります。大きく分けると、便のかさを増やして便が出やすくする薬(浸透圧性下剤、上皮機能変容薬など)、大腸の動きを刺激して便を押し出す薬(刺激性下剤)があります。
刺激性下剤は長く使用すると効きにくくなります。長年の便秘に対して刺激性下剤を連用している場合は、上皮機能変容薬などを用いながら、徐々に刺激性下剤を減らしていくことを目標とします。
肛門の近くまで来ている排便をだそうとするときには浣腸や坐薬を用いて肛門の近くを刺激します。
3.バイオフィードバック療法
便秘に対するバイオフィードバック療法とは、直腸内に挿入した風船を便に見立てておしだしてもらうトレーニングを行うことや、腹筋や肛門の周囲の筋肉がどのように動いているかを肛門の圧などを測定し、数値を見ながら肛門を締めるトレーニングを行うことを指します。
4.洗腸法
肛門から専用のチューブを挿入し、腸の中にお湯を入れます。お湯を流して腸の中の便を洗い流します。決まった時間に排便を促すことができるので、生活の質を上げることができます。
5.手術
便秘の原因によっては手術が有効なことがあります。直腸脱や直腸瘤による便秘は手術によって便秘が改善することがあります。便秘の種類によっては肛門の近くの大腸だけを残して大腸をほとんど切除する治療もあります。
便失禁の治療
1.食事・生活・排便習慣の指導
食事や排便の習慣、生活習慣について聞き取りを行い、排便がスムーズになるような指導を行います。当院では担当医、看護師、栄養士などが協力して指導を行います。
勧めること | 控えること | |
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食事 |
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排便 |
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生活 |
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参考:「便秘失禁診療ガイドライン2017年版」
2.薬の治療
薬を用いて便秘の症状が出ない程度に便を硬くして回数を減らすことです。坐薬や浣腸を用いて肛門の近くの腸をすっきりさせることが有効な場合もあります。
3.骨盤底筋の訓練
肛門の周りの筋肉をきたえることで、便失禁(尿失禁も)を改善する方法です。毎日繰り返し行うことが重要です。病院で指導を行い、自宅で根気強く訓練をすることで効果が出ます。
ゆっくりと呼吸をした状態で、肛門を締めて10秒我慢し20秒休むということを10回から20回繰り返します。これを1セットとして1日3~5セット行います。この訓練の時は腹筋に力が入らないようにすることが大事です。
腹筋に力が入っていないか、肛門を締めようと意識した時に実際に肛門が締まっているかなどを確認、指導します。
便失禁の方の中には便を我慢しようとして体全体に力が入ってしまい、結果的に腹筋が締まることで排便する動作になっていることがあります。つまり、我慢をしようとして排便をする動作になっています。
4.バイオフィードバック療法
便失禁に対するバイオフィードバック療法とは、肛門の締まりや便が溜まっている量を肛門筋電計や肛門内圧計を使って数値化することで、患者さんに自分自身の体の状態を理解してもらい、より効果的に肛門を締めることや便意を我慢できるようにすることをいいます。
当院ではバイオフィードバック療法に直腸バルーン感覚検査を用いて指導しています。直腸内で膨らませたバルーンがどれくらいの大きさで便意が出てくるかを自覚してもらい、徐々に膨らませるバルーンを大きくしていきます。
5.洗腸
肛門から専用のチューブを挿入し、腸の中にお湯を入れます。お湯を流して腸の中の便を洗い流します。洗い流すことで腸を空にし、その後約1日間便の心配をすることなく過ごせます。決まった時間に排便を促すことができるので、生活の質を上げることができます。
6.手術療法
当院で行っている手術療法は、傷ついた肛門括約筋を修復する「括約筋形成術」と、排便に関わる神経を刺激するためのペースメーカーのような装置を埋め込む「仙骨神経刺激療法:sacral neuromodulation: SNM」、そして「人工肛門造設術」があります。
いずれも、生活指導や薬の治療、バイオフィードバック療法などで効果が上がらない方が対象となります。手術を行うかは、担当医と相談して決めます。