骨盤臓器脱

女性特有、骨盤臓器脱は昔からある疾患です

骨盤臓器脱の診断

骨盤臓器脱とは

骨盤臓器脱

骨盤臓器脱とは、骨盤内の臓器が「腟」や「肛門」から脱出してくる疾患の総称であり、子宮脱・膀胱瘤・直腸瘤・直腸脱など様々なものがあります。

骨盤臓器(子宮、膀胱、直腸など)は靭帯や膜で支えられており、これが出産で傷ついたり、加齢につれて弱くなったりすることで骨盤臓器脱が生じてきます。

昔からある疾患であり、この骨盤臓器脱で悩んでいる方は非常に多く、全国で数百万人はいると考えられています。ただし、この病気はまだ広く認知されておらず、羞恥心のために我慢している方も数多くいるのが現状ですが、自然に治ることはありません。

また、痔核などの肛門疾患、便失禁などの排便障害、子宮筋腫などの婦人科疾患、尿失禁などの排尿障害を合併することもあり、大腸・肛門外科、婦人科、泌尿器科などが連携して診療にあたる必要があります。

骨盤臓器脱の症状

骨盤臓器脱の症状として、次のようなものがあります。

  • 腟からまるいものが脱出する
  • ピンポン玉のようなものが触れる
  • 股の間になにかはさまった感じ
  • 下腹部が引っ張られる感じ・下がってくる感じ(下垂感)
  • 肛門から腸が大きく脱出してくる

骨盤臓器脱は、軽症の場合には腹圧がかかったときに一時的に脱出する程度ですが、重症化すると常時脱出したままとなります。特にこの症状は、長時間の歩行・運動の後に悪化しやすくなります。また朝方には何ともないのに、夕方になると症状が気になってくる方が多いようです。

骨盤臓器脱になりやすい方

  • 閉経後:女性ホルモンの分泌が減り、膣が弱くなります
  • 肥満:自分の体重で膣に負担がかかります
  • 便秘:強くいきむと腹圧がかかるためです
  • 子宮摘出後:子宮を支える組織がなくなっています
  • 多産:出産は膣に大きな負担がかかります
  • 喘息、花粉症:咳も腹圧がかかります
  • 職業:立ち仕事や重い荷物などを持つ仕事など

骨盤臓器脱の種類

腟から脱出するもの

  • 子宮脱:子宮が下垂して脱出してくる疾患
  • 膀胱瘤:膣の前の壁が弱くなり膀胱が下垂し脱出してくる疾患
  • 直腸瘤:直腸と腟の間の壁が弱くなることで、直腸が腟から脱出してくる疾患

*膣からピンポン玉のように飛び出している膣の壁であり、子宮や膀胱、直腸が直接脱出しているわけではありません。

肛門から脱出するもの

  • 直腸脱:直腸の支持が弱くなることで、直腸が肛門から脱出してくる疾患

子宮脱、膀胱瘤の治療

骨盤臓器脱チームで対応、治療に選択肢を

骨盤臓器脱チーム

骨盤臓器脱は、便失禁などの排便障害、尿失禁などの排尿障害を合併することが多く、関連する科が連携して診療にあたる必要があります。当院では、「骨盤臓器脱チーム」として各科の医師、看護師、医療相談員等が骨盤臓器脱のあらゆる状況に対応しています。

開院以来多くの患者さんの診療にあたっており、遠方からも受診・治療される方もおられます。また、女性医師による診察も可能です。

子宮脱、膀胱瘤の治療の種類

治療は大きく分けて、保存的治療(手術以外の治療)と手術治療があります。当院では、ぞれぞれの長所、短所を患者さんにご説明し、症状やご希望に応じて治療方法を選択しています。

保存的治療

ペッサリー治療

リング治療(ペッサリーの使用)

ペッサリーという器具を腟に入れ、壁を支えることによって脱出を防ぎます。ペッサリーは、ご自身でつけたり外したりできるようにすること(自己着脱)が可能です。自己脱着により、膣炎や出血などの合併症を減らすことができます。また、通院の間隔も長くでき、性生活も可能となります。

当院では、治療を継続していく場合、ペッサリーの自己脱着をお勧めしています。専門の看護師が個別指導しており、多くの患者さんが自己脱着できるようになっています。コンタクトレンズの着脱と同じように、慣れるとそれほど難しくありません。

長所
  • 手軽に挿入することができる(10秒ほどで入ります)
  • 身体への負担が少ない
  • 手術に変更することができる
短所
  • 根本的な治療ではない
  • 自己脱着しない場合は、定期的な受診が必要(約3ヶ月毎)
  • ペッサリーが脱落してしまうことがある
  • ペッサリーによる違和感を覚えることがある

フェミクッションの使用

フェミクッションの使用

下着のように着用し外から圧迫して脱出を防ぎます。

長所
  • 自分で装着することができる
  • 定期的な通院が不要
短所
  • 根本的な治療ではない
  • 高価(一式約2万円前後で、他に交換用物品が必要)
  • 着脱に多少手間がかかる
  • 尿漏れがある方には向いていない
  • 圧迫する場所の都合上試着できない

骨盤底筋訓練

骨盤底筋と言われる骨盤底の筋肉群を鍛えることで症状を軽減させることができます。

骨盤底筋訓練を効果的に行うには、骨盤底筋の動きを画面で確認しながら訓練する「バイオフィードバック療法」が有効です。この療法で覚えた訓練を、ご自身の生活の中で繰り返し行い、骨盤底筋の機能を強化していく必要があります。

手術治療

手術方法にはいくつか方法があります。当院では、経腟的手術(TVM)と経腹的手術(LSC)を行っています。いずれも根本的に治すための治療です。患者さんの年齢や患者さんへの体への負担、患者さんの退院後の生活などを考慮して、術式が決定します。

長所
  • 根本的に治すことができる治療です
短所
  • 入院が必要です(1週間程度)
  • 合併症がおきることがあります
  • 再発することがあります

TVM手術とは

TVM手術とは

TVM手術(Tension-Free Vaginal Tape Surgery)では、膣を切開して、下垂する臓器との間に膣壁を補強するためのメッシュと呼ばれる網目状のシートを挿入します。

さらに詳しい解説は、当院医師による解説サイト「骨盤臓器脱のメッシュ手術(TVM手術)」をご覧ください。

長所
  • おなかを大きく切る必要がなく、短時間でできるため、術中の体の負担が軽い
  • 術後の痛みが軽い
  • 子宮を摘出しなくてもいい
  • 膣の変形が起こらない
短所
  • 術後に性交痛が起きることがあります

LSCとは

LSC(Laparoscopic Sacrocolpopexy)は、日本語では「腹腔鏡下仙骨腟固定術」という手術です。

腹部に5mmから1cmほどの穴を数か所開けて、腹腔鏡という手術用のカメラをお腹の中に入れて、お腹の中からメッシュで膣を引き上げ、メッシュを背骨の下の部分に固定します。こちらは、40~50代の比較的若い方で、術後も日常的に性行為を行う希望がある方に適した手術です。

長所
  • 性交痛が起きにくい
  • メッシュをしっかりと縫合するので、メッシュがずれにくい
短所
  • 手術時間が長く、術中の体の負担が大きいため、高齢者には向いていない

直腸瘤の診療

直腸瘤とは

直腸瘤とは、直腸と腟の間の壁が弱くなることで、直腸が腟から脱出してくる疾患です。

直腸瘤の症状として、「排便障害」の訴えと「腟がふくれてくる」という訴えが主なものとなります。重症の直腸瘤では、「排便時に腟を押さえないと便が出ない」とか、「腟がピンポン玉のようにふくれてくる」という訴えが起こります。

この直腸瘤は、「排便造影検査」という検査で診断がつきます。この検査は、肛門から少量のバリウムを入れて排便状態をX線撮影する方法であり、直腸瘤の診断には欠かせません。

直腸瘤の治療

軽症の直腸瘤の場合には、排便コントロールを行うことで「病気とずっとつきあっていく」こともできるのですが、重症の直腸瘤を治すには手術が必要となります。

直腸瘤の手術には、「腟側からメッシュを入れて補強する方法(TVM手術)」と、「肛門側から弱った壁を縫い縮めて補強する方法」の二種類があり、病状に応じて術式を使い分けています。

直腸瘤で悩む方全員に適切な治療を行うためには、「腟側」と「肛門側」のどちらか一方だけでは不十分であり、両方の術式を修得した医師が適切な術式を選択して手術を行う必要があります。

直腸脱の診療

直腸脱とは

直腸の支持が弱くなることで、直腸が肛門から脱出してくる疾患です。この直腸脱は、高齢の女性によく見られる病気ですが、まれに若年者に見られることもあります。

脱出する腸の長さはさまざまで、ほんのちょっとしか脱出しない人もいれば、30cmくらい脱出するケースもあります。直腸脱は通常排便時だけ脱出して、排便後には戻ることが多いのですが、重症化すると脱出したままになります。このような場合、出血や痛みを伴ってくることもあります。

直腸脱の治療

直腸脱は薬では治らないので、手術が必要となります。直腸脱の手術は、おなかを切って行う手術(経腹的手術)と、肛門側から行う手術(経肛門的手術)の二種類に分けられます。

若年者で全身麻酔のリスクが低い場合には、通常、成績の良い経腹的手術(直腸固定術)で治療を行います。一方、高齢者の場合には、麻酔のリスクが低い経肛門的手術が行われることが大半です。

この経肛門的手術には、直腸粘膜を抜去して筋層を縫い縮める「デロルメ法」や、脱出する直腸脱を切除して腸管と肛門を吻合する「アルトマイヤー法」や、肛門の締まりを正常に近づける「ティールシュ法」などがあり、状況に応じて適切な方法を使い分ける必要があります。

高齢者の直腸脱は、どうしても一定の頻度で再発する可能性があるのですが、再発した場合には再度治療を行うことによって、当院では、最終的には全員の直腸脱を治すことができています。

診療実績

骨盤臓器脱の手術件数

    2021年 2022年 2023年
子宮脱 子宮頸部(腟部)切除術 19 14 21
腹腔鏡下子宮腟上部切断術 79 125 100
膣脱 腟壁形成手術 250 268 268
腟断端挙上術(腟式) 34 37 34
膀胱脱・膀胱瘤・直腸瘤 膀胱脱手術
(メッシュ使用)
5 0 0
膀胱脱手術
(その他)
225 225 236
腹腔鏡下膀胱脱手術 5 58 55
腹腔鏡下仙骨腟固定術
(LSC)
12 0 0
直腸脱 直腸脱手術
(経会陰、腸管切除を伴う)
76 54 45
直腸脱手術
(経会陰、腸管切除を伴わない)
7 3 10
腹腔鏡下直腸脱手術 69 61 57
合計   781 845 826

※DPCデータから集計

骨盤臓器脱外来

骨盤臓器脱の診療を希望される方は、「骨盤臓器脱外来」を受診してください。
*直腸脱の診療については、大腸・肛門外科の外来診療をご案内しています。

担当医(臓器脱チーム)

婦人科

大腸・肛門外科

診療時間

 

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診療時間 水・金曜日 14:00~17:00
*骨盤臓器脱外来は、初診・再診とも予約制となっております。ご予約・変更については、電話予約センターをご利用ください。

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